お腹が、問診の答え合わせをしてくれる
月経痛の患者さんを診ています。問診では、経血に塊があり、月経前にのぼせて便秘がち。瘀血+実という座標が浮かんでいます。ここで仰向けになってもらい、下腹部にそっと手を当てると、左の下腹に索状の抵抗があり、押すと本人が「あ、そこ痛いです」と声を上げる――問診で立てた仮説が、手のひらの下で裏づけられた瞬間です。
漢方の腹診(ふくしん)は、脈診とならぶ切診の柱で、西洋医学の腹部診察とは着眼点が異なります。臓器の圧痛や腫瘤を探すためだけでなく、証の座標を手で確かめるためにお腹を診ます。とりわけ婦人科では、瘀血の所見がお腹にはっきり出るため、腹診が決め手になります。
腹力 ― まず虚実を手で測る
最初にみるのは腹力(ふくりょく)、腹壁全体の充実の程度です。押し返す力が弱く、フニャリと軟らかいお腹は虚、しっかり張って弾力のあるお腹は実の傾向。問診で「疲れやすく冷える」と聴いた患者のお腹が軟弱なら、虚という読みが確からしくなります。虚実は温めて補うか、巡らせて捌くかという方向を分ける軸ですから、腹力はその方向を手で確かめる作業です。
瘀血の腹候 ― 婦人科の要
婦人科でもっとも重要なのが、瘀血を示す圧痛点です。
- 小腹急結(しょうふくきゅうけつ):左下腹部(S状結腸のあたり)に触れる索状の抵抗と、押したときの鋭い圧痛。瘀血の代表的な腹候で、桃核承気湯や桂枝茯苓丸を考える手がかりです。
- 臍傍・回盲部の圧痛:臍のわきや右下腹を押したときの抵抗・圧痛も、瘀血のサインとして拾います。
これらは、問診で拾った「塊」「固定した痛み」「のぼせと足の冷えの同居」といった瘀血の訴えと合わせて読みます。訴えと腹候が同じ方向を指したとき、瘀血という座標が固まります。
季肋部とみぞおち ― 気の所見
お腹の上のほうにも、証の手がかりがあります。
- 胸脇苦満(きょうきょうくまん):季肋部(肋骨弓の下)を押し上げるように触れたときの抵抗感・圧痛・つかえ。柴胡剤を用いる目標とされ、婦人科では加味逍遙散などを考える所見です。イライラや気分の高ぶりを伴う更年期・PMSの患者で拾えることがあります。
- 心下痞硬(しんかひこう):みぞおちのつかえ・抵抗。気の停滞や水のさばけの悪さを示唆します。
腹の所見が、座標を裏づける
腹診の値打ちは、問診で立てた証の仮説を手で答え合わせできることにあります。塊と月経痛から瘀血を疑い、小腹急結でそれを確かめる。疲れやすさから虚を疑い、軟弱な腹力で裏づける。こうして望・聞・問で組み立てた座標が、切診で確かなものになります。次回は、もう一つの切診である舌診・脈診を、初歩から見ていきます。