婦人科は、毎日「血」を診ている
外来で、月経にまつわる訴えを聞かない日はありません。経血の量、色、塊の有無、周期の乱れ、月経前後の不調――私たちは日々、「血」の状態を問診しています。
漢方は体を気・血・水の3つの巡りで見ますが、婦人科でとりわけ重いのが血の軸です。月経も妊娠も産褥も、血が満ち、巡り、時に滞る――その動態そのものだからです。今回は、この血を中心に、気と水を添えて整理します。
血の失調 ― 「滞り」と「不足」を見分ける
血の失調には、大きく二つの病態があります。血が滞る瘀血(おけつ)と、血が足りない血虚(けっきょ)です。滞りは巡らせ、不足は補う――向かう方向は違いますが、両者は対立するものではなく、実際にはしばしば重なって現れます(瘀血兼血虚)。だからこそ、どちらに寄っているかを読み分けることが大切です。
瘀血 ― 血が滞る
瘀血は血の巡りが滞った状態です。「血の巡りが悪い」と聞くと血栓を思い浮かべますが、漢方の瘀血は西洋医学の血栓とは違い、見分けやすい所見の束で捉えます。
- 経血に暗い塊が混じる
- 刺すような固定した痛み(場所が動かない)
- 下腹部の圧痛(臍のわき、小腹の抵抗)
- のぼせと足の冷えが同居する
- 舌が暗紫色、舌の裏の静脈が怒張する
- 色素沈着、肌のくすみ
これらは月経困難症や子宮内膜症に随伴して婦人科外来でよく見る所見です。つまり私たちは、すでに毎日「血の滞り」を診ているのです。
血虚 ― 血が足りない
血虚は血の量と滋養が不足した状態です。貧血と重なることもありますが、検査値が正常でも血虚のことがあります。
- 顔色が悪い、唇や爪の色が薄い
- めまい・立ちくらみ、動悸
- 皮膚の乾燥、髪のパサつき、爪がもろい
- 経血量が少ない、周期が延びる
- 疲れやすく、こむら返りが起きやすい
瘀血が「詰まって痛む」なら、血虚は「乏しくて栄養が届かない」。同じ月経痛でも、背景がどちらに寄るか――あるいは両者がどう重なるか――で、選ぶ一手が変わります。
気 ― 上る・つかえる・足りない
血に次いで婦人科で効くのが気の軸です。気はエネルギーと巡り。その失調は三つの形をとります。
- 気逆(きぎゃく)=気が上へ突き上げる。のぼせ・動悸・イライラ・頭痛。月経前や更年期に強まります。
- 気滞(きたい)=気が停滞してふさぐ。抑うつ、ため息、咽のつかえ、お腹の張り。
- 気虚(ききょ)=気が足りない。気力の低下、疲れやすさ、食欲不振。
月経前になると心身が高ぶる、あるいは沈む――この揺れの多くは気の失調で読み解けます(詳しくは第4回で扱います)。
水 ― むくみ・めまい・悪心
三つ目が水の軸です。水滞(すいたい)は体液の巡りの滞りで、むくみ・頭重・めまい・悪心として現れます。月経前の体重増加やむくみ、つわりの悪心は、この水滞で捉えます。血虚と水滞は併存しやすく、「冷えてむくみ、月経量が少ない」患者では、血を補いながら水を捌く発想になります。
同じ月経痛でも、血の証が違えば方剤が変わる
- がっちり体型で経血に塊、月経前にのぼせ、下腹部に圧痛――瘀血(実)。血の滞りを巡らせる桂枝茯苓丸が届きやすい座標です。
- やせ型で冷えると痛みが増し、顔色が悪くむくみやすい――血虚+水滞+寒。血を補い水を捌いて温める当帰芍薬散が合いやすい座標です。
同じ「月経痛」でも、滞りに寄るか不足に寄るか、あるいは両者の重なりで、一手が変わります。主訴ではなく、血の証を読んでから方剤へ――これが原理から選ぶということです。
もちろん、器質的疾患の除外が先です。不正出血の背後にある悪性腫瘍、貧血、内分泌疾患――西洋医学的な診断と除外を済ませたうえで、説明のつきにくい不調を気血水で読み直します。