同じ月経困難症なのに、なぜ効く薬が違うのか

外来で、こんな経験はないでしょうか。

同じ月経困難症。器質的な原因は画像で除外済み、年齢も経過も似ている。同じNSAIDsを処方した。それでも、一人は「今回はずいぶん楽でした」と言い、もう一人は「あまり変わりません」と浮かない顔で戻ってくる。

多くの場合、私たちはこの差を「体質」の一言で片づけます。冷え性だから、もともと生理が重いから、たまたま合った——。けれども、もし「経血に塊が多くてのぼせやすい患者にはあの薬が効いたがする」という手応えが、偶然ではなく再現できるパターンだとしたら。そのパターンを言葉にして、次の患者に使える形にしたもの。それが漢方でいう「(しょう)」です。

「証」とは、患者を束ねて見る座標

漢方が曖昧に見えるのは、「証」を一つの物差しだと思ってしまうからです。実際の証は、複数の軸を束ねて患者の状態を一点に置く座標に近いものです。

「月経痛」という主訴からいきなり一剤を選ぶのではなく、その患者が今どこにいるのか——冷えているのか熱を持ってのぼせているのか、体力が充実しているのか弱っているのか、の巡りが滞っているのか足りないのか——を先に読む。そのうえで、その座標に合う方剤を選ぶ。だから同じ月経困難症でも、選ぶ薬が患者ごとに変わります。

婦人科が漢方と相性がよいのは、女性の訴えの多くが月経・妊娠・産褥・更年期という時間の流れの上にあり、その流れが証の変化とよく重なるからです。証を読むとは、目の前の患者を「病名」ではなく「今どのステージの、どんな座標にいる人か」として見ることでもあります。

3本の軸で患者を置く

婦人科診療でまず押さえたいのは、次の軸です。

寒熱 × 虚実 ― 温めるのか、冷ますのか/補うのか、捌くのか

寒熱は、患者が冷えて悪化するのか、熱を持って(のぼせて)悪化するのか。虚実は、反応する力が落ちて弱っている(虚)のか、反応が過剰で充実している(実)のか。この2軸を掛け合わせると、患者の大まかな「治療の方向」が決まります。

冷えて弱々しく、疲れやすい患者(寒×虚)には、温めて補う方向へ。がっちりして、のぼせ・便秘があり月経痛が激しい患者(熱・実)には、巡らせて捌く方向へ。同じ月経痛でも、置かれた象限が反対なら、方剤も正反対になります。

気・血・水 ― 何が滞り、何が足りないのか

もう一段細かく見るのが、気・血・(気=エネルギーと巡り、血=栄養と循環、水=体液の巡り)の3要素です。婦人科でとりわけ重いのがの軸です。

だるさ・気力の低下は、月経の異常や固定した痛みは、むくみや悪心・めまいは——というように、訴えを要素に翻訳していきます。

同じ「月経困難症」でも、証が違えば方剤が変わる

冒頭の2人の患者に戻りましょう。

同じ病名、同じNSAIDsでも、漢方の一手はここまで分かれます。主訴ではなく、座標に合わせる——これが証で選ぶということです。

まず西洋医学、その上に証

強調しておきたいのは、証は西洋医学に取って代わるものではない、ということです。不正出血の背後にある悪性腫瘍、急性腹症、貧血、内分泌疾患——これらの除外と診断が先であり、証はそのうえに重ねる地図です。「効かない西洋薬の言い訳」に漢方を使うのではなく、「この患者に合う一手を、もう一つの座標系から選ぶ」ために使います。

次回以降、この座標の各軸——気血水、寒熱虚実、そして手で確かめる四診腹診——を一つずつ見ていきます。