「むくみ」の訴えを、水の証で振り分ける

外来の一場面です。「月経前になると体が重くなって、指輪がきつい」「夕方には足がむくむ」と訴える女性。月経前浮腫は黄体期のホルモン変動を背景に珍しくない訴えですが、漢方ではむくみを「」の巡りの停滞水滞)として捉え、で振り分けます。

まず西洋医学的な除外です。心不全・腎機能低下・肝硬変・甲状腺機能低下などによる浮腫、そして一側性のむくみなら深部静脈血栓症(DVT)を除外します。妊娠中・妊娠の可能性がある女性のむくみでは、血圧上昇と蛋白尿を確認し、妊娠高血圧腎症を除外します。全身性で周期性の浮腫を、証で読みます。手がかりは、口渇と尿量、体格、冷えや貧血傾向、のぼせの有無です。

① 口渇があるのに尿量減・めまい・天候悪化 → 五苓散

足がむくむが、よく聞くと「のどが渇くのに尿が少ない」「めまいがある」「雨の日にひどい」。これは水滞(水毒)の中心像で、水を捌く五苓散が向きます。口渇があるのに尿量が減る――この不均衡が五苓散の目印です。

② 全身のだるさ・冷え・貧血傾向を伴う → 当帰芍薬散

やせ型で疲れやすく、顔色が悪くめまい・立ちくらみ、冷えを伴うむくみ。血虚に水滞と冷えが重なった虚証の像で、婦人科で広く使われる当帰芍薬散が合いやすい。を補いながら水を捌く方向です。

③ 色白・水太り・多汗で重だるい → 防已黄耆湯

色白でふっくら、汗かきで、膝や下肢が重だるくむくむ。典型的な気虚と水滞の像で、防已黄耆湯黄耆を補いながら水をめぐらせます。いわゆる「水太り」で、肥満傾向があれば減量と併せて用いるとよい。

④ 立ちくらみ・動悸・のぼせを伴う → 苓桂朮甘湯

むくみやすさに立ちくらみ・動悸・のぼせが重なり、めまい感が前景。水の上衝気逆が絡む像には苓桂朮甘湯を考えます。②③が虚・水太りなのに対し、④はのぼせ・動悸という上衝が決め手です。

月経前の体重増加・むくみをどう読むか

月経前の数日で1〜2kg体重が増える、指輪や靴がきつくなる――これは黄体期に水を保ちやすくなる生理的変動を背景とした周期性の水滞として読めます。月経が始まると軽快するのが典型で、この「周期に連動して増減するむくみ」であることを確認すると、慢性の器質性浮腫と区別しやすくなります。冷えや貧血傾向が背景にあれば当帰芍薬散、水太り体質なら防已黄耆湯と、体質の証に月経前浮腫を重ねて考えます。

まとめと注意

同じ「むくみ・月経前浮腫」でも、口渇と尿量減なら五苓散、冷え・貧血を伴う虚なら当帰芍薬散、色白・水太りなら防已黄耆湯、のぼせ・動悸を伴えば苓桂朮甘湯と、証で分かれます。心・・肝・甲状腺の浮腫、一側性ならDVTの除外が前提です。防已黄耆湯・苓桂朮甘湯は甘草を含み、浮腫・血圧上昇・低カリウム血症(偽アルドステロン症)に留意します。妊娠の可能性がある場合、当帰芍薬散は妊娠期にも比較的用いやすい方剤です。五苓散も妊娠期にも比較的用いられる部類とされ、防已黄耆湯・苓桂朮甘湯も妊娠中に特に注意される生薬は含まないとされます。妊娠・授乳中の使用については問題が少ないとする報告が増えていますが、添付文書上は「有益性が危険性を上回ると判断される場合にのみ投与する」とされており、実際の可否はこれに沿って個別に判断します。

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